仮設住宅は「災害救助法」という法律のもと、1戸にかかる「建築費」「広さ」「供与期間」等が定められています。
こうした制限下で用意がされている為、住めることを第一に設計されており、画一的になってしまう事は仕方ありません。
これまで「夏は暑い冬は寒い」といったイメージが強かった仮設住宅ですが、今は「制限の中でより快適に」という思想が強まっています。
東日本大震災から熊本地震を経て、今年1月に能登半島地震に見舞われました。
仮設住宅はどの様に変化をしていったでしょうか。
この記事では仮設住宅の進化についてお話していきます。
1 従来の仮設住宅の課題
従来の仮設住宅はプレハブがほとんど全てとなっていました。
プレハブの仮設住宅では、迅速な建設とコストの抑制を重視して設計されており、長期的な利用を目的にしていないため、住み続ける中で次のような課題が指摘されています。
①居住性の低さ
プライバシー空間が持てない、生活空間の少なさ、断熱性や遮音性の不足。
また、画一的に配置された仮設受託団地では、新たなコミュニティが形成されにくく、一人暮らしの住民の孤独死も。
②環境への配慮
大量生産されたプレハブ仮設住宅は、廃棄時には多くの廃材を生み出し、環境負荷が高くなっています。
カーボンニュートラルを目指す昨今の社会とはかけ離れています。
③著しい劣化
長期利用をする場合、傾斜・腐食・カビなど、劣化が著しい事例も出ております。
東日本大震災の際に建設されたプレハブの仮設住宅では、原則2年間の供与期間を過ぎてもなお復興されておらず、入居期間が特例で伸ばされていました。
2年間を想定して建設されているので、そもそも長期利用には向いておりません。
岩手県釜石市にある「平田仮設住宅団地」の一部では、床の歪みや土台の腐食が顕著に表れています。
石巻市の仮設住宅では大量のカビが繁殖してしまいました。
2 「くまもとモデル」
写真:熊本県「平成28年熊本地震公害公営住宅整備記録」
「くまもとモデル」とは、仮設住宅をプレハブではなく、木造で整備したものです。
居住空間のゆとりを持たせた快適性、素材を感じる木造住宅の温かさ、コミュニティの形成し易さ等、「長期間でも暮らしやすい家」をコンセプトにしています。
また、「みんなの家」と呼ばれる集会所が併設され、孤立化を防ぐ意識も特徴の一つです。
東日本大震災における「くまもとアートポリス」の取組みが、このモデルの誕生のきっかけであります。
更に、平成24年7月の九州北部豪雨により大水害に見舞われ、5団地の仮設住宅を木造で整備した事で、くまもとモデルの原形が完成したといえます。
そして平成28年4月に発生した熊本地震。
同県ではこれまでの経験を活かし、長期的な利用の可能性を見据えて、RC基礎の木造を積極的に導入しつつ、みんなの家も整備しました。
4303戸の仮設住宅のうち、683戸が木造で建てられ、84棟のみんなの家も整備されました。
更に4年後に発生した令和2年7月の豪雨では、仮設住宅808戸のうちの740戸が、木造で建てれています。
経験を積み重ねるごとに、居住性も向上しており、これにより「くまもとモデル」と呼ばれる様になりました。
3 「くまもとモデル」のアイデア
①RC基礎の木造
写真:熊本県「平成28年熊本地震公害公営住宅整備記録」
この構造こそが一番の特徴であるといえます。
従来のプレハブは、枠組みが出来上がっている物を木杭するだけなので、仮設住宅を作るうえでは非常に効率的です。
しかし前述した通り居住空間としては欠陥が多いのがプレハブです。
一方で木造は、建築基準法に沿ってRCの基礎を打つ必要があるので、建設に時間も費用も掛かってしまいますが、居住性という点においては優れています。
熊本県を襲った令和2年の豪雨から既に4年が経っていますが、住まいの再建が出来ていない住民も多く、復興が長期化しているので木造仮設住宅で良かったです。
②瓦屋根の採用
令和2年の豪雨の際に採用されました。
従来であれば、金属製のガルバリウムを使用した屋根でしたが、雨音が室内に響き、被災者の心理的不安を煽ってしまう為、それらを防ぐ為に瓦屋根が採用されました。
③住まいの快適性
写真:熊本県「平成28年熊本地震公害公営住宅整備記録」/ 一般社団法人木を活かす建築推進協議会「熊本地震木造応急仮設住宅建設の取組み」
これまでは洗濯機置き場のスペースが取れず、外に設置する事を余儀なくされていましたが、洗濯機置き場を室内に取り組むといった改善も行われました。
また、仮設住宅は9坪で作るというルールがある事で、収納スペースをとることが難しかったです。
そこで、専用梯子のある屋根裏収納や床下収納が編み出され、収納スペースも十分に確保で出来る様になりました。
高齢者の多い地域での被災では、バリアフリーにも配慮しており、室内全ての段差をなくしています。
他にも、スロープや手すりが備わった仮設住宅も出ており、限られたスペースで快適な暮らしが叶う様、様々な工夫が施されています。
④コミュニティ形成と個
写真:熊本県「平成28年熊本地震公害公営住宅整備記録」
建物の間隔を広く取るように配置したり、6戸程の長屋で形成された住棟を2~3戸に区切って、人々が周回・回遊できるように「小路」が設けられました。
そうした動線上に椅子や広場を配し、コミュニケーションを育む事で、「ゆとり」と「ふれあい」のある仮設団地に。
また、人々が集う「みんなの家」もコミュニケーションをとる場となり、絆が生まれやすくなりました。
プライバシーとコミュニティが共存する環境づくりも注目される取組の一つです。
⑤その後の利活用
建てられた仮設住宅やみんなの家は、自治体に譲渡され利活用されています。
仮設住宅は、居住期間の定めのない仮設住宅としてや、子育て世帯へ安い家賃で貸し出したり、公営住宅化する事も出来ます。
みんなの家は児童館や公民館として、ほとんどが利活用されています。
プレハブ仮設住宅であれば、プレハブは再利用が出来ない為、全てが廃棄処分となります。
木造の仮設住宅はSDGsの観点からも、価値があるといえるでしょう。
4 能登半島地震での進化
自治体間で知見や経験の共有を経て、石川県は木造の仮設住宅である、「まちづくり型応急仮設住宅」を整備。
更に「ふるさと回帰型応急仮設住宅」という、戸建て風の仮設住宅も設けました。
能登半島地震でもRC基礎の木造仮設住宅が多く導入され、長期利用や利活用も見据えた取り組みとなっています。
内装には木の温もりを感じられるデザインが採用され、寒さ対策として3重窓なども備えられています。
5 トレーラーハウスという選択
令和2年に豪雨被害に襲われた熊本県では、プレハブ及び木造の仮設住宅の他に、熊本県では初めてのトレーラーハウスを導入しました。
トレーラーハウスとは、工場で生産されるコンテナサイズの住宅の事で、既に完成した建物を基礎から切り離す事が出来る為、解体せずにそのままトラックで輸送が出来ます。
被害に遭ったた熊本県球磨村には賃貸物件がほとんどない状態で、避難所から賃貸物件へ移り住む事が出来ませんでした。
高齢者が多い地域であったため、避難所生活も長く強いられません。
こうした背景から、建設に時間がかからないトレーラーハウスが採用され、実際に導入されています。
北海道胆振東部地震で導入実績があったという事もあり、気密性や断熱性に優れており、湿度が安定して保てる事や、遮音性も高いという高性能な仮設住宅です。
6 まとめ
プレハブ仮設住宅は、建設がスピーディーで早急な対応が出来る一方、耐久性や住みやすき等は木造に劣ります。
木造仮設住宅は、耐久性もあり住みやすいため利活用もされやすいですが、RC基礎のため建設に時間が掛かってきます。
「震災からいち早く準備する」「大量な仮設住宅を安価に用意する」といった点では、プレハブ仮設住宅が活用され、「長期的な復興を見据える」「高齢者が多いため孤立化しない様に」といった点では、木造仮設住宅が活用されるなど、状況や環境による適材適所が必要となってきます。
また、被災の経験や対応策などの知見は、自治体間での共有が大切となります。
被災経験も無駄にせず情報を蓄積し、被災後も快適・安心に暮らせる様、今後も様々な工夫が施されていくでしょう。
参照:熊本県「知事記者会見で使用するパワーポイント作成における注意点等」
参照:熊本県「熊本地震みんなの家利活用プロジェクト」