■前回のまとめ
高度経済成長期に集中的に整備されたインフラは、今後急速に老朽化が進むと言われています。
適切な修繕が行われないと事故に繋がったり、震災時に生活困難となる可能性が高く、事前に修繕を行う「予防保全」という考え方で、今後はインフラの修繕が進んでいきます。
「事後保全」から「予防保全」へ切り替わる事で、将来的な修繕費用が抑えられるうえに、事故の防止にも繋がっていくと期待されています。
また、橋や道路などのインフラ全般の所有者は、地方公共団体が大半を占めています。
更に、地方公共団体に勤める技術者数や、建設業就業者数が減少している事で、インフラの修繕を行う技術者の深刻な人手不足が懸念されています。
この状況では、地方公共団体への負担が増加してしまう為、政府は支援や対策も行っております。
・包括的民間委託の導入
・研修制度
・民間資格の新規登録 など
■修繕技術の具体例
①自己修復型コンクリート
バクテリアや特殊な化学物質を混ぜ込んだコンクリートが、ひび割れた際に水分に触れると、自動的に硬化され修復される技術です。
コンクリートのひび割れの進行を抑制でき、長期的なメンテナンスコストの削減が期待できます。
日本では2022年に国土交通省の新技術情報提供システムへ登録されたばかりですが、オランダでは既に道路や橋梁への導入が進められています。
②炭素繊維シートを用いた耐震補強
炭素繊維プラスチックシートを既存建物の柱などに張り付けるだけで耐震補強が出来る技術です。
鉄と比較すると約1/4でとても軽量で、更に鋼板の約10倍の強度があり、耐久性も高くなっています。
建築資材の搬入が難しい山間部のトンネル補強に有効的です。
③電気防食システム
コンクリート内の鉄部腐食を防ぐ為に、鉄筋に微弱な電流を流して、腐食を抑制する技術です。
海沿いなどの塩害環境下や寒冷地などにある構造物に有効で、長期的な耐久性向上が期待されています。
関西国際空港の連絡橋に採用され、建設から数十年経過した現在もなお、良好な状態を保っています。
④IoTセンサー
橋梁やトンネルにIoTセンサーを設置する事で、振動・ひずみ・温度変化などを計測し、リアルタイムでデータ収集をします。
蓄積されたデータを分析する事で、劣化の進行を予測する事もできますし、異常の検知もスピーディーに行えます。
これにより無駄なコストを削減しながら安全性を高めることが叶います。
■インフラの修繕事例
①東京都の橋梁修繕
東京都では、橋梁の耐震補強工事と長寿命化工事を、当初の予定より前倒しして進めています。
3次元データを活用したりする事で、効率よく工事が進められます。
また、高性能鋼材を水平力分担構造に使用する事で、長寿命化が図れております。
②長崎のトンネル補修
湿気の多い地形のため内部のコンクリート劣化が深刻化していました。
こちらのプロジェクトでは電気防食システムとモニタリング技術を併用しています。
劣化進行の抑制とメンテナンス頻度の低減が期待されています。
また長崎では、世界遺産である軍艦島での電気防食試験も行われており、成果を上げております。
③オランダの防波堤
オランダではオランダ最大の可動式防波堤の長寿命化を実施中です。
高耐久性コーティング材と自己修復型コンクリートを活用し、気候変動による負荷増加を見据えた耐久性の向上を図っています。
■まとめ
これらの新技術は単独で活用されるだけではなく、相互に連携する事で更に大きな効果が期待できます。
例えばIoTセンサーで蓄積されたデータから、修復箇所や修復方法等を分析する、といった統合的なアプローチをする事で、より効率的に修復が行えるようになります。
インフラの長寿命化は経済的な負担を軽減するだけでなく、環境負荷の低減や生活の安全性にも寄与します。
今後もこうした新技術が進む中で、これらの新技術をいかに効率的に活用し、安全で持続可能な社会を実現していくか、など重要な課題となるのではないでしょうか。
・参照:「インフラ老朽化対策」(https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf)
・参照:「社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/index.html)
・参照:インフラ長寿命化計画(https://www.mlit.go.jp/common/001040309.pdf)
・NETIS新技術情報提供システム(https://www.netis.mlit.go.jp/netis/)
・橋梁予防保全計画│東京都建設局(https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kensetsu/000051884)